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高山 宗東 『ワイン王国』ライター |
オーストラリアワインの魅力は「多彩さ」。広い国土に、個性的な産地、さまざまなテロワールが点在し、さらにその中にはミクロクリマが存在する。しかし、多彩さの最大の要因は、そこに住む人びとのパーソナリティーの豊かさに他ならない。 テロワールとは、地理的、地質的、気候的条件に加え、そこに住む人びとの気質的条件までも含めた言葉なのだから―― 今回の旅で出会った、とびきりユニークな造り手たちの肖像をご紹介します。
▼カレン・ワインズ西オーストラリア州マーガレットリヴァーは、「オーストラリアで最もワイン生産に適したテロワール」と折紙をつけられた土地。 カレン・ワインズは、そんなマーガレットリヴァーを代表するビオディナミの造り手である。現在、ワイナリーを率いるヴァーニャ・カレンさんのもうひとつの顔は、16歳の時から波に親しんできたサーファー。 「今はネットで調べることができるけれど、昔は波の状況を、空や風から『読んだ』ものよ」と。変幻自在の顔を見せる波、サーファーは自然と一体になって、その真髄を読む「日和見」でもあった。天体の運行に従い、自然に寄り添ってワイン造りを行うビオディナミとは、もともと相通じていたのかもしれない。
▼セペルツフィールド
南オーストラリア州バロッサ・ヴァレーの〈セペルツフィールド〉は、100年もののポートワインを販売する稀少なワイナリー。毎年、500ℓの樽にそのヴィンテージを保存し、100年後に販売するという遠大な趣向を実践している。
現在オーナー ウォーレン・ランドール氏は、筏下り、洞窟探検、自動車レース、ヒマラヤ登頂などなどに果敢に挑戦する冒険家としての一面をもつ人物。
「今までで最も大きな冒険は?」とお聞きしたところ、たちどころに「セペルツフィールドを買ったこと!」という返事がかえってきた。
人生最大の冒険は、大成功だったようである。
▼コールドストリーム・ヒルズ
著名なワインジャーナリストであるジェイムズ・ハリデー氏は、筋金入りのブルゴーニュファン。
ある時、「オーストラリアにもこんなワインがあったのか!」と彼を驚かせたのは、ガレージワインのように細々と造られていたヤラ・ヴァレーのピノ・ノワールだった。
1985年、ハリデー氏はヤラ・ヴァレーに〈コールドストリーム・ヒルズ〉を設立し、ブルゴーニュ系品種の栽培にとりかかる。二年後には早くも、フランス『ゴーミヨ』誌のワインオリンピック「ピノ・ノワール部門」において四位を獲得、全世界にオーストラリア・ピノ・ノワールの底力を見せつけた。
「オーストラリアワインの牽引者」にして「無類のピノ・ノワール好き」の、面目躍如たるものがある。
流石っ!
▼ダーレンベルグ
南オーストラリア州マクラーレン・ヴェイルには、世界的にも稀少なグルナッシュの古樹が存在している。
時間帯によって海や山から次々と冷涼な風が流れ込み、それが複雑な起伏をもつ土地と相俟って独自のミクロクリマとなり、秀逸な葡萄を育むのである。
歴史あるワイナリー〈ダーレンベルグ〉の四代目チェスター・オズボーン氏は、現在「グルナッシュ種の普及のために」と、SF映画の脚本を執筆中。
「SFとワイン?」......なにやら奇想天外な、スペースオペラが期待できそうである。
▼ピズィーニ・ワインズ
ビクトリア州キング・ヴァレーは、イタリア系の人々が多く住むところ。
ところで、オーストラリアのイタリアン――ことに、イタリア系の家庭に招かれて御馳走になるイタリア料理は絶品、という噂がある。
イタリア本国では、時代の流行でさまざまにアレンジされてしまうが、イタリア系移民の家庭では、渡ってきた当時のレシピが頑なに守られて、今では本国でも容易には食べられなくなったティピカルな味わいが継承されている......というのである。
〈ピズィーニ・ワインズ〉のピズィーニ家も、そんなイタリア系一家。毎日、大家族で賑やかに食卓を囲む様子は、まるでイタリアに居るかのような錯覚さえ引き起こす。
果して、料理上手はマンマの味は「まさに絶品!」。ご自慢の、イタリア系品種を用いたワインとの相性も抜群である。
▼ヤルンバ
エデン・ヴァレーは冷涼で雨も豊富。ストラクチャーに優れたリースリングや、強かで透明感のあるシラーズを育む。また、20世紀中頃には「フランスに数ヘクタールしか生き残っていなかった」というヴィオニエ種の産地としても有名である。
ヴィオニエが絶滅に瀕していた当時、種の保存と商品化に率先して取り組んだのが、この地区の老舗〈ヤルンバ〉である。
今や、同ワイナリーはオーストラリアのみならず、世界のヴィオニエリーダーとして知られるようになった。
とはいえ、植樹し、研究を重ね、商品化し、さらに市場で評価されるまでにはおよそ20年にもわたる長い年月がかかった。すぐに結果を求める企業であったら、とうの昔に「ヴィオニエ復活計画」は放棄されていただろう。
ヴィオニエが守られたのは、「イノベーションは長い年月をかけてはじめて開花する」――という、〈ヤルンバ〉の社是があってこそ、だったのかもしれない。
▼ペタルマ
南オーストラリア州アデレード・ヒルズは、標高300~500mに位置。アデレードから車で30分ほどしか離れていないにも関わらず、驚くほど涼しいという気候的特徴がある。
その特徴をあらわすように、エレガントなシャルドネやシャンパーニュ風スパークリング、あるいはシラーズやヴィオニエなどのローヌ系品種など、クラシックスタイルのワインが知られている。
アデレード・ヒルズを代表するワイナリー〈ペタルマ〉の醸造家アンドリュー・ハーディ氏は、クラシックカーをこよなく愛する人物。「古い車は、オイル臭く、わがままで、何かと手がかかる。若いブドウの樹を育てるのに似ているね。そこがまた、双方に共通する魅力だよ」――とのこと。
今日も自慢のクラシックカーで、美しいテロワールを疾走しているに違いない。

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